建設系廃棄物でも「石こうボード」の処理にはご注意を!
一般住宅や事務所などを建築する際や解体する際には、多くの建設系廃棄物が発生します。
その廃棄物のうち安定型の産業廃棄物(プラ、がれき、ガラス等)は、比較的安価な安定型最終処分場に埋め立てることが可能です。
しかし、「石こうボード」については注意が必要です。その注意点について、化学的に解説していきます。
とある建築資材メーカーが、「石こうボード」の不適正処理で捜査されているという記事がありました。
三重県川越町の建築資材メーカーの工場の敷地に、石こうボードの廃材が埋められていることがわかり、県は廃棄物処理法に違反する可能性もあるとみて調べています。
2024年7月11日 東海テレビ 「「悪臭がする」と苦情…埋められた“石膏ボードの廃材” 建築資材メーカーの工場敷地内に 硫化水素を検出」
そもそも工場敷地内のことなのに、なぜ不適正処理が判明したかというと、近隣住民からのこんな苦情があったようです。
県によりますと、4月下旬に工場周辺の住民から悪臭がすると苦情が寄せられ、調査の結果、硫化水素が検出されました。
「硫化水素」のにおいは、温泉街などでよくにおう、あの卵が腐ったようなにおい(腐卵臭)です。
今回の工場付近には温泉街がなく、疑うとすればどこかの工場からの臭気であることから当該工場が判明したと考えられます。
さて、そもそも「石こうボード」とはどのような資材なのでしょうか。
(出典)一般社団法人石膏ボード工業会
石こうボードとは、「せっこう」をしん材として両面を「紙」で覆ったもので、以下の特徴をもち、経済性にも優れる。
・防火性
・遮音性
・寸法安定性
・工事の容易性
建築物を建てる上で欠かせない、優れた特徴を持つ建材として今の建築物の多くに使用されています。
そんな建築面では優れている「石こうボード」ですが、廃棄物としてはやっかいものとして扱われてきました。
先ほど示した通り、石こうボードは、【石こう】と【紙】で構成されています。
よって、【紙】は管理型の廃棄物として、取り除いた後、【石こう】は、安定型の廃棄物として最終処分しても良いとの環境省通知が発出されました。
(平成10年7月16日付け環水企第299号環境庁水質保全局長通知)
しかし、その後の新たな科学的知見により紙を取り除いた廃石こうにおいて硫化水素を発生するおそれがわかり、平成18年6月から、廃石こうボードの安定型処分場への埋め立てが禁止されました。
(平成18年6月1日 廃石膏ボードから付着している紙を除去したものの取扱いについて(通知))
石こうは、化学式で示すと「CaSO4」を主成分とする鉱物です。
埋立られた石こうは、分解する過程で以下のような反応を示します。
CaSO4 → Ca+ + SO42-
この硫酸イオンが、硫化水素の発生原因となります。
下の図に示すとおり、安定型処分場の深くに埋められた石こうが、酸素(O2)のない状態(嫌気性)で被覆した土壌などに含まれる「有機物」と降ってきた雨などの水分(H2O → 2H+ + O2-)の「水素イオン(H+)」と反応して以下のような反応を起こします。
有機物 + SO42- + 2H+ → nCO2 + mH2O + H2S
(出典)国立研究所 資源循環・廃棄物研究センター
今回の記事にある事案の詳細は定かではありませんが、工場内で長年廃棄され続けた【石こう】が酸素のない状態に陥り、土中の有機物に分化されることで硫化水を発生したと考えられます。
今回は、化学的な観点から解説をしました。廃棄物を扱う上で、廃棄物の性状ごとに化学的な危険性を知ることは重要だと考えますので、石こうボードを処理する際は、十分に注意をしてください。