解体工事の廃棄物法違反ケーススタディ|元請・下請・孫請の違反事例
日々、廃棄物処理法違反のニュースにアンテナを張って確認をしているのですが、解体工事において行為者全員が廃棄物処理法違反というとんでもないニュースがありました。
無許可の下請け業者に産業廃棄物の収集運搬や処理を委託したなどとして、警視庁生活環境課と五日市署などは廃棄物処理法違反の疑いで、解体工事会社部長、M容疑者(34)=住居不定=ら男女3人を逮捕し、11日、同社など法人3社を書類送検した。M容疑者は調べに「解体工事が重なっていて人手不足だった」と容疑を認めている。 【出典】2025年7月11日 産経新聞 「無許可業者に産廃処理委託「人手不足だった」 容疑で解体工事会社部長ら3人逮捕」 |
よくある事案にも見えるかもしれませんが、記事にもあるとおりこの事案には法人が3社も絡んでいます。どういう状況かというと、さらに記事を詳しく確認するとわかります。
M容疑者の逮捕容疑は令和6年10月28日ごろ、東京都国立市の家屋解体工事に伴う産業廃棄物の収集運搬や処理について、都の許可を受けていない下請け業者に委託したとしている。同課によると、受託した事業者がさらに無許可の下請けに委託。最終的に受託した事業者は、自社の敷地内に約968キロのがれきや断熱材などを埋めたとしている。近隣住民から多摩環境事務所(立川市)に相談があり、同事務所が警察に通報して発覚した。
要するに解体工事を受任した元請業者、委託先の下請業者、下請業者のさらに委託先である孫請業者の3社が関与しています。事案のイメージ画像をAIに作成してもらいました。

なお、今回の予備知識として解体工事を含む建設工事における排出事業者は、発注者ではなく、解体工事の元請業者が排出事業者になります。詳しくは関連記事をご確認ください。
それでは、今回の本題である各社の違反行為を確認していきます。
まずは元請会社は、産業廃棄物収集運搬業及び産業廃棄物処分業の許可を受けていない下請業者に収集運搬や処分を委託しているので、【委託基準違反】です。
(事業者の処理)
廃棄物処理法第12条
5 事業者(中間処理業者(発生から最終処分(埋立処分、海洋投入処分(海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律に基づき定められた海洋への投入の場所及び方法に関する基準に従つて行う処分をいう。)又は再生をいう。以下同じ。)が終了するまでの一連の処理の行程の中途において産業廃棄物を処分する者をいう。以下同じ。)を含む。次項及び第七項並びに次条第五項から第七項までにおいて同じ。)は、その産業廃棄物(特別管理産業廃棄物を除くものとし、中間処理産業廃棄物(発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程の中途において産業廃棄物を処分した後の産業廃棄物をいう。以下同じ。)を含む。次項及び第七項において同じ。)の運搬又は処分を他人に委託する場合には、その運搬については第14条第12項に規定する産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者に、その処分については同項に規定する産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託しなければならない。廃棄物処理法第25条
次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 ~ 五 略
六 第6条の2第6項、第12条第5項又は第12条の2第5項の規定に違反して、一般廃棄物又は産業廃棄物の処理を他人に委託した者
そして下請業者は、許可を得ずに元請から産業廃棄物の収集運搬を行っているので【無許可営業】【受託基準違反】となります。さらに、その処理を孫請けに「再委託」しているため、【再委託違反】にも問われる可能性があります。
(産業廃棄物処理業)
廃棄物処理法第14条
15 産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者以外の者は、産業廃棄物の収集又は運搬を、産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者以外の者は、産業廃棄物の処分を、それぞれ受託してはならない。
16 産業廃棄物収集運搬業者は、産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を、産業廃棄物処分業者は、産業廃棄物の処分を、それぞれ他人に委託してはならない。ただし、事業者から委託を受けた産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を政令で定める基準に従つて委託する場合その他環境省令で定める場合は、この限りでない。廃棄物処理法第25条
次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 ~ 十二 略
十三 第14条第15項又は第14条の4第15項の規定に違反して、産業廃棄物の処理を受託した者
(以下略)廃棄物処理法第26条
次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第6条の2第7項、第7条第14項、第12条第6項、第12条の2第6項、第14条第16項又は第14条の4第16項の規定に違反して、一般廃棄物又は産業廃棄物の処理を他人に委託した者
最後に孫請業者ですが、下請業者同様、許可を得ずに産業廃棄物の収集運搬、処分を行っているので【無許可営業】【受託基準違反】となり、自社敷地内に埋め立てているので【不法投棄】となります。
(投棄禁止)
廃棄物処理法第16条
何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。廃棄物処理法第25条
次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 ~ 十三 略
十四 第16条の規定に違反して、廃棄物を捨てた者
(以下略)
さらに報道外の考察をすると、今回の事案は元請事業者が廃棄物処理法を理解していないだけではなく、下請事業者、孫請事業者も理解していないと考えられます。よって、本来、排出事業者である元請事業者が作成する必要のある委託契約書や交付する必要のある産業廃棄物管理票(マニフェスト)を交付していないと考えられます。
その場合、【委託基準違反】だけでなく【産業廃棄物管理票交付義務違反】となります。
(産業廃棄物管理票)
廃棄物処理法第12条の3
その事業活動に伴い産業廃棄物を生ずる事業者は、その産業廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合には、環境省令で定めるところにより、当該委託に係る産業廃棄物の引渡しと同時に当該産業廃棄物の運搬を受託した者(当該委託が産業廃棄物の処分のみに係るものである場合にあつては、その処分を受託した者)に対し、当該委託に係る産業廃棄物の種類及び数量、運搬又は処分を受託した者の氏名又は名称その他環境省令で定める事項を記載した産業廃棄物管理票(以下単に「管理票」という。)を交付しなければならない。
(虚偽の管理票の交付等の禁止)
廃棄物処理法第12条の4
第14条第12項に規定する産業廃棄物収集運搬業者若しくは第14条の4第12項に規定する特別管理産業廃棄物収集運搬業者又は第14条第12項に規定する産業廃棄物処分業者若しくは第14条の4第12項に規定する特別管理産業廃棄物処分業者は、産業廃棄物の運搬又は処分を受託していないにもかかわらず、前条第3項に規定する事項又は同条第4項若しくは第5項に規定する事項について虚偽の記載をして管理票を交付してはならない。
2 前条第1項の規定により管理票を交付しなければならないこととされている場合において、運搬受託者又は処分受託者は、同項の規定による管理票の交付を受けていないにもかかわらず、当該委託に係る産業廃棄物の引渡しを受けてはならない。ただし、次条第1項に規定する電子情報処理組織使用義務者又は同条第2項に規定する電子情報処理組織使用事業者から、電子情報処理組織を使用し、同条第1項に規定する情報処理センターを経由して当該産業廃棄物の運搬又は処分が終了した旨を報告することを求められた同項に規定する運搬受託者及び処分受託者にあつては、この限りでない。
廃棄物処理法第27条の2
次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。
一 第12条の3第1項(第15条の4の7第2項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定に違反して、管理票を交付せず、又は第12条の3第1項に規定する事項を記載せず、若しくは虚偽の記載をして管理票を交付した者
(中略)
七 第12条の4第2項の規定に違反して、産業廃棄物の引渡しを受けた者
産業廃棄物管理票に関しては、排出事業者だけでなくその処理を受託した者も違反に問われる可能性があります。
今回の関与事業者の違反事項を以下にまとめてみました。
元請業者 | 委託基準違反 | 5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金 |
産業廃棄物管理票交付義務違反 | 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 | |
下請業者 | 無許可営業 | 5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金 |
受託基準違反 | 5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金 | |
再委託禁止違反 | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 | |
産業廃棄物管理票交付義務違反 | 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 | |
孫請業者 | 無許可営業 | 5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金 |
受託基準違反 | 5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金 | |
不法投棄 | 5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金 | |
産業廃棄物管理票交付義務違反 | 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
廃棄物処理法だけでこれだけ多くの違反を犯しているということは、他法令についても遵守されていないと考えます。解体工事を実施する場合は、廃棄物処理法だけでなく、建設リサイクル法、大気汚染防止法、建設業法など複数の法令が関与します。
廃棄物処理法では、「発注者」が何の罪にも問われないように思いますが、他法令では違反となる場合があります。知らぬ間に違反事業者に加担することになる前に、関係法令の確認を怠らないようにしましょう。
次回は、解体工事において遵守が必要な法令について解説します。